思索ノート
Notes on Beauty and Time
文字は、本来一列に並ぶものです。
しかし日本人は、文字を読むだけではなく、**文字を「眺める」**という文化を育てました。
その代表が「散らし書き」です。
一文字一文字は離れていても、視線は自然に流れ、余白までもが和歌の一部となります。
文字は、紙の上を舞うように置かれ、空間そのものが一つの作品となるのです。

檜原図屏風 書:近衛信尹 画:長谷川等伯 安土桃山~江戸時代・16~17世紀 京都・禅林寺蔵
一方、《檜原図屏風》では、書と絵は互いに競うのではなく、静かに呼応しています。
木々のリズムに文字が寄り添い、文字の流れが風景の余韻を深めています。
絵は文字を包み、文字は絵に時間を与える。その関係性こそ、日本美術の美しさだと私は感じています。
私は散らし書きを、文字を散らす技法とは考えていません。
むしろ、一文字ごとに呼吸を与え、余白と響き合わせるための構成だと考えています。
書と絵が互いを引き立て合うように、文字と空間もまた、一つの世界をつくっているのです。
文字と空間、そして文字と絵は、互いに呼応しながら、一つの世界をつくり上げます。見る者は、その響き合いの中で、和歌の余韻を味わうのです。
私が作品を制作するときも、文字を並べるのではなく、文字が呼吸する空間をつくりたいと考えています。散らし書きは、古典の技法であると同時に、現代の書にも生き続ける美意識なのです。